エースフラックスとは?――流動する性的指向とAceスペクトラムのあいだで

私たちの性的指向は、時にひとつの言葉で簡単に表せるものではありません。近年、より細やかな自己理解を可能にする言葉が増えてきています。その一つが「エースフラックス(Aceflux)」です。この記事では、エースフラックスという概念について、背景や定義、Aceスペクトラム(アセクシュアル・スペクトラム)との関係を踏まえて説明します。

エースフラックスとは何か?

「エースフラックス」とは、性的指向が流動的(フルイド)である人のうち、そのほとんどの時期をAceスペクトラム上に位置づけられる人を指す言葉です。Aceとは「アセクシュアル(無性愛)」の略であり、Aceスペクトラムとは、「完全に性的な欲求や関心がない」という状態だけでなく、「あまり性的に惹かれない」「状況や関係性によって性的関心を持つことがある」といった幅広い体験を含む概念です。

エースフラックスの人は、このAceスペクトラム内を揺れ動くことが多く、時には「ほとんど性的欲求を感じない」と思っていた自分が、別の時期には「少し性的に惹かれることもある」と感じるようになることもあります。まさに、その「変動性(フラックス)」こそがエースフラックスの特徴です。

「フラックス(flux)」という語の意味

「フラックス」という言葉は、英語で「流動」「変化し続ける状態」といった意味を持ちます。つまり、「Aceflux」という言葉は、「Ace(アセクシュアル的な傾向)でありつつ、変動する性質をもつ」という二重の意味を含んでいます。

この用語は、自分自身の性的指向が一定でないことを悩む人が、それでも自分の在り方を理解し受け入れられるようにするために生まれた自己定義のひとつです。

他のスペクトラムとの違い

Acefluxは、以下のような概念と混同されることがありますが、それぞれ異なる意味を持ちます。

アセクシュアル(Ace):他者に対して性的に惹かれることがない、あるいは非常に稀であると感じる人。

グレイセクシュアル(Gray-Ace):性的惹かれが非常に稀、もしくは条件付きで起こる人。

デミセクシュアル(Demisexual):強い感情的な結びつきができた相手にのみ性的に惹かれる人。

フルイド(Fluid):性的指向そのものが時間とともに変化する人。

エースフラックスはこれらの概念と重なる部分もありますが、「性的指向が変化する」こと自体が特徴であり、なおかつその多くの期間がAceスペクトラムに位置するという点で独自性があります。

なぜこの言葉が必要なのか

性的指向において、「一貫性」が求められることがあります。たとえば、「あなたは本当にアセクシュアルなの? さっき“ちょっと気になる人がいる”って言ってたじゃない」といったように、揺れ動く感情や体験を「矛盾」として否定されることがあります。

しかし、人の感情や欲望は、時期や環境、体調、ストレス、恋愛経験など様々な要因で変化しうるものです。エースフラックスという言葉は、そのような流動性を「矛盾」や「未熟さ」として捉えるのではなく、むしろ個人のリアルな体験として尊重するためのラベルなのです。

最後に――多様な自己理解のために

「自分はアセクシュアルだと思っていたけど、そうでもない気がする時期もある」「性的な関心がある時とない時がある」――こうした感覚を持つ人にとって、エースフラックスという言葉は、自分を正しく理解し、肯定する助けになります。

性的指向に明確な境界線を引くことは難しいこともあります。だからこそ、自分の体験にぴったりくる言葉が見つかることで、少しでも心が軽くなったり、他者との対話がしやすくなったりするのです。

Acefluxは、その一つの可能性です。誰かの心の中にある「わかりにくいけど確かにある気持ち」に寄り添うために、この言葉があるのです。

日本SRGM連盟

アセクシャル(ノンセクシャルを含む)、アロマンティック等のAスペクトラムやXジェンダー、LGBTQ等のSRGM(性・恋愛・ジェンダー少数者)の当事者団体である日本SRGM連盟の公式サイトです。

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