【声明】性的指向と恋愛指向の混同は人権侵害である


性的指向と恋愛指向の混同は人権侵害である

日本SRGM連盟

 現在、法務省は公式ホームページにおいて「性的指向とは,人の恋愛・性愛がどういう対象に向かうのかを示す概念を言います。具体的には,恋愛・性愛の対象が異性に向かう異性愛(ヘテロセクシュアル),同性に向かう同性愛(ホモセクシュアル),男女両方に向かう両性愛(バイセクシュアル)を指します」と記しています(法務省「性的指向及び性自認を理由とする偏見や差別をなくしましょう」2020年12月28日閲覧)。

 法務省の公式ホームページに記されている以上、これは我が国の政府の公式見解である、ということです。しかも、法務省は刑事事件や人権侵害事案を担当する官庁です。法務省の見解は私たちの生活に多大な影響を及ぼします。

 しかしながら、この法務省の見解には深刻な問題が存在します。

 第一に、性的指向の具体例を「異性愛」「同性愛」「両性愛」に限定しています。Aceスペクトラムの人たちについては、その存在すら認めていないのです。

 第二に、性的指向を「人の恋愛・性愛がどういう対象に向かうのか」である、と定義しています。恋愛と性愛とを混同している上に、「恋愛」の方を先に持ってくることで「性的指向=恋愛対象を示す概念」である、という印象を強く与えてしまっています。

 性的指向と恋愛指向とは、全く別のものです。この両者の混同は、まず恋愛はあるが性愛はしない「ロマンティック・アセクシャル」や恋愛はしないが性愛はある「アロマンティック・セクシャル」を無視するものであって、他にも性的指向と恋愛指向とが一致しない多くのSRGM当事者を無視することになります。

 これは、法務省の単なる無知によるもの、とは言えません。

 何故ならば、恋愛指向と性的指向の混同は、SRGMと無関係の場でも様々な人権侵害を引き起こしているからです。

 恋愛感情を抱いているからと言って、必ずしも相手に性的魅力を抱いている、或いは、相手と性行為をしたがっている、とは限りません。この自明のことを無視することにより、現にデートレイプを始めとする様々な人権侵害や性暴力が行われています。犯罪や人権侵害への対策を担当しているはずの法務省が、どうしてこのことに気付かなかったのでしょうか?

 その他にも、売買春という人権侵害について「恋愛感情によるもの」という抜け道を与える等、性的指向と恋愛指向の混同は様々な人権侵害事案への解決を妨害します。

 私たちはこうしたホームページでは、LGBTはもちろんAスペクトラムについても説明し、性的指向と恋愛指向の違いを明確に区別するなどしていただき、できれば「SRGM」というより包括的な用語を使用していただきたいと考えます。また、法務省を始め人権尊重を職掌とする皆様には「恋愛=性愛」という概念が人権侵害の一因となっていることを意識していただきたいと考えます。

 このことは法務省だけの問題ではありません。我が国が民主主義国家である以上、今の日本社会において「恋愛=性愛」という観念があまりにも蔓延していることが、誤った政府見解に繋がったと考えられるからです。

 一例を挙げると、「恋人なのに性行為をしていないのは可哀想」と言ったセクハラ発言の事例は多数存在します。無論、Aceスペクトラム当事者がこうしたセクハラ発言の被害者になる事例も存在します。

 本会は、Aスペクトラムの存在を知っていただくとともに、性的指向と恋愛指向の混同は人権侵害であるということをより多くの方々に理解していただきたい、と考えます。

日本SRGM連盟

アセクシャル(ノンセクシャルを含む)、アロマンティック等のAスペクトラムやXジェンダー、LGBTQ等のSRGM(性・恋愛・ジェンダー少数者)の当事者団体である日本SRGM連盟の公式サイトです。

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