アクリセクシュアル(Acrisexual)とは ―「惹かれるけれど、なぜかしっくりこない」感覚に名前を与える言葉―

アクリセクシュアル(Acrisexual)とは、他者に対して性的に惹かれる感覚を持つものの、その感覚に対して違和感や不自然さを抱く人を指す性的指向の一つです。

たとえば、誰かに対して性的魅力を感じたとしても、「これが“普通の性的惹かれ”なのだろうか?」「この気持ちは自分のものとして自然なのか?」といった、根本的なずれや戸惑いを感じることがあります。そのような人々が、自らの感覚に名前を与え、アイデンティティを確立するために生まれたのが「アクリセクシュアル」という概念です。

語源と背景

「アクリ(acri)」は、英語のacrimony(鋭さ、刺すような違和感)やacrid(刺激のある、つんとした)に由来しているとされ、性的な感情の中に混じる「ズレ」や「なじまなさ」を象徴しています。

アセクシュアル(無性愛)やデミセクシュアル(特定の関係に限定して性的に惹かれる)などと同様に、性的指向の多様性を補完する語彙の一つとして、近年インターネット上のLGBTQIA+コミュニティを中心に使われるようになりました。

アクリセクシュアルの特徴

アクリセクシュアルの人が経験する「性的惹かれの違和感」は、以下のような形で現れることがあります:

異性愛・同性愛などのいずれかに惹かれる経験をしつつも、その感情に自己一致感がない

性的な惹かれを経験しても、それを「自分の本当の感情」として受け止めづらい

周囲の人々が語る性的欲望や恋愛感情に自分の感覚が合わず、居心地の悪さを覚える

このような感覚は、性的惹かれの「有無」ではなく、その「質」に関する違和感である点において、アセクシュアルやグレイセクシュアルとは異なる独自の位置を占めています。

他の指向との比較

アセクシュアル(Asexual):性的に惹かれない、または極めて稀にしか惹かれないと感じる人

デミセクシュアル(Demisexual):強い感情的な絆を持つ相手にのみ性的に惹かれる人

アクリセクシュアル(Acrisexual):性的惹かれを経験するが、それに違和感・不自然さを覚える人

アクリセクシュアルは、**「性的惹かれを感じるが、それを自分のものとして受け入れがたい」**という特異な立場にあります。したがって、アセクシュアル・スペクトラムに含められることもありますが、必ずしも無性愛的であるとは限りません。

社会的意義

アクリセクシュアルという語は、**「どこかに属しきれない感覚」や「曖昧さそのもの」**に意味を与えるために生まれました。

多くの人は、自らの性的指向に自信を持てない時期を経験しますが、その中には、はっきりと性的惹かれを感じながらも、それが「自分にとって自然なものではない」と感じる人もいます。そうした人々にとって、アクリセクシュアルというラベルは、「自分は間違っていない」と確認するための言葉となり得ます。

最後に

性的指向は人によって千差万別であり、固定された枠組みだけでは表現しきれない複雑なものです。アクリセクシュアルという概念は、私たちの理解がまだ及んでいない「惹かれと違和のあいだ」に橋を架けようとする試みです。

「惹かれているはずなのに、何かが違う」――そんな感覚に悩んだことがある方にとって、アクリセクシュアルという言葉が、自分を理解するためのひとつの助けとなることを願っています。

日本SRGM連盟

アセクシャル(ノンセクシャルを含む)、アロマンティック等のAスペクトラムやXジェンダー、LGBTQ等のSRGM(性・恋愛・ジェンダー少数者)の当事者団体である日本SRGM連盟の公式サイトです。

0コメント

  • 1000 / 1000